なぜ「受検」だったのか?あらためて考えてみる:その①

長女が東葛中の門をくぐってからはや5年が過ぎ、今年4月には高校3年生になろうとしています。

この間、長女は東葛中の3年間と東葛高の2年間を経験し、全てをつぶさに見ることができているわけではありませんが、東葛中の授業や学校生活、そこに集まる生徒・先生方の特徴、雰囲気などもおぼろげに見えてきました。

そしてやはり自分自身、長女を東葛中に通わせて正解であったと実感しています。

二期生にあたる長女が受検した際には東葛中受検に関する情報があまりにも少なく、自分同様に東葛中の門を叩こうとするお子様を持つ親御さんへの情報提供(とりわけ適性検査の特徴や具体的な対策)を目的にこのブログを立ち上げましたが、受検から丸5年間、長女の学校生活をハタから眺めていた親の感想も交え、「なぜ東葛中受検という選択をしたのか?その選択は正解であったのか?」という観点からあらためてまとめてみようと思います。

【なぜ中学受検なのか?】

長女が受検を志したのは同じ学校に通うクラスメイトが公立一貫校受検を志望しており、冬期講習に誘われたことがきっかけでしたが、自分自身中学受験を経て私立の一貫教育を受けており、その経験から、以下のような観点から長女が受検を行うことの意義について何の疑いも持ちませんでした。

  1. 高校受験によって中断されることなく、知的好奇心旺盛な同世代からの刺激を受けながら、試行錯誤に必要な六年間というまとまった時間を与えられること
  2. 小学校生活においても「先輩(ロールモデル)」に憧れたりなったりする歳で「あの学校に入りたい」という主体的な選択を自ら行い、その選択に当事者意識を持って取り組むという経験がイニシエーションの役割を果たし、六年間というまとまった時間を有意義にするための推力を与えてくれること

しかし、私が小中学生であったころと日本や日本を取り巻く経済・社会環境、そして人々の価値観が大きく変わってきているなかでなお、長女の受検が正解であったと言い切れるのか?

長女の受検が終わって一つの節目となるこの時期に考えてみたくなったのです。

長女と年の離れた長男は長女の大変さを間近でみてきたこともあって受検という選択を行わず、小学校6年間を共に過ごしてきた地元のサッカーチーム(実は、自分も小学校高学年の時に在籍したことがある)の友達が通う公立中学に進学を行いました。

そして私の目からは、この長男の選択もまた長男にとっては正しく、またそのような選択をした長男を以下のような点において羨ましくも感じるのです。

  • 私が中学校受験のために中途半端な形で辞めざるを得なかったサッカーチームで最後までプレイすることができたこと
  • 優等生的に大人の意図を読み取り、自らの意図を上書きしてきた面も多分にあった私とは異なり、「良い学校」よりも「自分の居心地良さ」を上位に置くことができる価値観の軸を持ち得ていること
  • そしてその価値観の軸が、大人の入れ知恵や借り物ではなく、小学1年生から続く仲間との良い関係性構築という実体験に支えられていること

【日本をめぐる経済・社会環境の変化と価値観の変容】

以下の表は1992年末と2019年末の世界株式時価総額トップ25社を比較したものです(出典:

https://finance-gfp.com/?p=10552)。私が大学生をしていた1992年当時、日本の企業はトップ25社のうちの9社を占めていましたが2019年には1社もランクインせずに中国、韓国、台湾といったアジア勢の後塵を拝しており、トヨタ自動車がようやく33位に顔を出すばかりとなっています。

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世界の株式時価総額ランキング Top 25(1992 vs.2019 )

同様の変化が大学のランキングにも現れています。以下はタイムズ社による直近の世界大学ランキングです(出典:https://eleminist.com/article/1709)。中国、シンガポールなどのアジア勢が上位21にランクインする一方、日本の大学は東京大学がようやく35位にランクインする程度。出典がこころもとないのですが(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12179293947

2003年の上海交通大学ランキング(タイムズ社と並ぶ主要な大学総合ランキングの一つ)では東京大学が14位(カルフォルニア大学、ペンシルベニア大学と同程度)、京都大学が21位(ミシガン大学ジョンズ・ホプキンス大学と同程度)と相応の位置につけていたことを考えると、彼我の差を感じざるを得ません。

 

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2022年世界大学ランキング(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション

これまでは個別企業、大学といったミクロの指標を見てきましたが、同じことは平均賃金、実質実効為替レート(各国との貿易量や物価を加味した通貨の総合的な実力)などのマクロ指標にもはっきりと現れています。

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G7+韓国の平均賃金の推移(2000年以降、ドル実質化ベース)

グラフの通り

日本の実質賃金(物価の影響を加味した実質的な賃金)が2000年以降全く伸びておらず、G7の中でも下位に甘んじていることはよく知られた事実ですし

(出典:https://diamond.jp/articles/-/278127?page=2)、

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実質実効為替レートで見る円の実力

つい最近には総合的な通貨価値を表す実質実効為替レートでみた円の実力がピークの半分以下になり、1972年以来の水準まで低下したことがニュースにもなりました(出典:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB208IY0Q2A120C2000000/)。

エズラ・ヴォーゲルが著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の中で日本的経営を称賛し、世界時価ランキントップ25社に日本企業9社がランクインし、企業の実力に比べれば弱いと揶揄されながらも日本の大学が世界の大学ランキングのそれなりの位置につけていた文脈の中で語られる「良い大学、大手企業」という言葉の響きと、インフレどころかディスインフレが進行する中で20年間全く実質的な賃金の上昇が見られず、多くの人たちにとって海外旅行がまだ憧れであった1970年代前半の水準まで自国通貨の実力が低下してしまった文脈の中で語られる「良い大学、大手企業」という言葉の響きは当然違ったものになるはずです。

おそらく日本をめぐる経済・社会環境が私が中学受験をした頃と変わらなくて、自分の価値観も変わっていなければ、私はかつてサッカーチームを辞めさせた自分の父親同様に小学校高学年に上がった頃合いで長男を塾に通わせ、徐々にサッカーチームから遠ざけて中学受験をさせる方向に導いていたでしょう。

それをさせるためには、「有名大学、大手企業へと進むことで幸せな人生を送ることが出来る」との確信が必要ですが、自分自身の経験や客観的な今の経済・社会環境を踏まえた時に、かつて私の父親が抱いたほどの確信を自分は持てていません。

運用の世界では投資対象資産の収益性に不確実性がある場合に、当該資産を100%保有してしまう「ブレット型」の資産構成に代えて、安全資産とリスク資産をバランスよく組み合わせる「バーベル型」の資産構成を取ることがしばしばあります。

長女長男の進路をめぐる選択を整理すると結局それは、不確実性に起因する「バーベル型」資産構成の選択であったのだなと考えます。

私が受験した頃の常識では長女のとった選択は「安全資産」、それもかつての複利運用型貯蓄商品のように年率5%を超える利回り(15年も運用すれば元本が倍になる)を得られる「安全資産」と見做せたかもしれません。しかし経済・社会環境の変化に対応した結果起きる「価値の評価軸の変化」までを考慮に入れるとこの先を見据えた場合にもそうなのかは分かりませんし、むしろ長男のとった選択のほうが「安全」なのかもしれません。
今後何回かにわたって、この点をあれこれと考えたうえで「東葛中受検」の意味を再考し、まとめていきたいと思います。